遅ればせながらこの事に気が付いた私は、一から新しい研究をスタートさせるのを来年に延期し、1年目の講義で高評価を得る事ができたリサーチペーパーを発展させるという、より現実的な計画にシフトする事にした。そのペーパーは駆け出しの理論家の定石である「有名な研究の仮定を一部変更する事で結果に重大な変化がもたらされる事を示す」というパターンの研究であり、後続研究という性格上そこまで上を目指せるタイプの研究ではないのだが、今の自分にはそれが合っていると思う。(とはいえ同じ論文をベンチマークにした後続研究がJournal of Public Economicsという公共経済学のトップジャーナルに載っているので、頑張り次第では十分上も目指せるかもしれない。いずれにせよ、元の論文もその後続研究も、テクニカルにはそれほど難しい事はしていないが現実的に重要なテーマに取り組んでいるというタイプの研究なので、今の自分に合ったテーマ選びであるのは間違いないと思う。)
私が実践している例で言えば、私は「予習課題は授業のなるべく直前にやる」と決めている。これは授業という締切の直前ほど締切効果が発揮されるのに加えて、予習した内容が頭にハッキリ残った状態で授業を受けられるからである。復習課題については締切効果を考えると締切直前がいい一方、課題が出たらすぐに片づけてしまう方が授業内容が頭に残っているため効率的なので、どちらが良いかは難しい問題である。私の場合は、①とも関連するが「締切効果を利用せずともやる気が起きる興味のある課題はすぐに取り組み、あまり気の進まない課題は締切直前に取り組む」事にしている。このようにルール自体は明確なのだが、具体的にスケジュールを組む際にはタスク同士の都合が衝突するため、最適なスケジュールを組むというのは意外に難しい。新学期が始まる度に時間割に合わせてスケジュールを考え、非効率な点を少しずつ修正しながら学期を過ごしていくというのが学部生の頃からのルーティーンとなっている。もう何年も続けているルーティーンでも、未だに最適なスケジュールを組むのはTrial and Errorに時間がかかるので、計画段階のミスを減らすには不断の努力が必要である。
Comparative Politics and Formal Theory Conferenceという、中々にニッチな学会に参加してきた。ニッチと言うのは、以前の投稿でも書いたように比較政治学と言えば実証研究中心の分野で、「比較政治学は実証研究である」と明示的に述べる大学もあるくらいだからである。そんな中、自分と同じ志を持つ研究者が少なくとも数十人いるという事実を確認できただけでも、心強い思いがした。また、今回も今まで紙面や画面上でしか見た事の無かった憧れの研究者の話を間近で聴くことができ、また少しアメリカの研究コミュニティに親近感を覚える事ができた(その人はホームページの写真からはクールな人柄を想像していたのだが、実際のキャラクターはとてもチャーミングで心温まった)。
今期を総じて見ると、一番記憶に残っているのはAdvanced Formal Methods in Political Economyで自らの数学力の低さを痛感し、数理政治学者として本当にやっていけるかと度々不安になったという事である。だがその分Voting and Electionsの授業で書いたリサーチペーパーは、聴き間違えでなければ「クラスで一番の出来」という評価を頂く事ができ、「たとえPure Theoryが得意でなくても自分はApplied Theoryでは競争力があるかもしれない」と言い聞かせる事でモチベーションを維持していた*4。Applied Theoryにおけるセンスというのは、数学力のような分かりやすい能力とは異なるので自信を持つことは難しいし、トップジャーナルに論文を何本かパブリッシュできて初めて自らの適性に確信を持つ事ができるのだと思う。この夏からはいよいよ2nd-Year Paperに着手し本格的に研究が始まるので、自らの存在意義に対する不安を払拭するためにもなるべく早く業績を挙げたい。