Rochesterで数理政治学を学ぶ

アメリカ政治学博士課程留学サンプル

Divide-the-Dollar ModelとSpatial Model

今回の投稿はいつもより専門的なので、ほとんど誰も読まない事を覚悟して投稿したいと思う(誰も読まないのはいつもの事ではないかというツッコミは妥当だが野暮である)。だがこの話は数理政治学を勉強している人なら必ず一度は抱く疑問だと思うので、若干名の読者の皆さんにとっては感動ものかもしれない(実際私は感動した)。話自体はとても短いので、もったいぶらずに中身に入ろう。

経済学でBargainingと言う時には、所与のパイに対してプレイヤー1が自分の取り分を提案して、プレイヤー2がそれを受諾するか否かを選ぶという分配的なモデルを想定するのが普通である(パイの大きさは1とする事が多いのにちなんで、Divide-the-Dollar Modelと呼ばれる事が多い)。それに対して政治学でBargainingと言う時には、実数直線の政策空間(右派か左派かと考えればわかりやすい)上でプレイヤー1が政策を提案し、プレイヤー2がそれを受諾するか否かを選ぶという空間的なモデル(Spatial Model)を想定する事が多い。これらは別々に発展を遂げており、数理政治学の授業では両者を別々に勉強する事になる(実際、定番の教科書であるFormal Models of Domestic PoliticsではSpatial Modelが4章、Divide-the-Dollar Modelが6章で登場する)。そこで必ず浮かぶ疑問が、「Divide-the-Dollar ModelとSpatial Modelの関係って何なの?」という疑問である。この疑問は、一方で示された結果がもう一方でも成り立つかという点に関わるのでとても重要なはずであるが、意外にも数理政治学の授業でこの話が触れられる事はほとんどない(もし「私の授業ではこの点がきちんと説明された」という人がいたら、その先生は恐らく素晴らしい数理政治学者である。ぜひコメント欄で報告して頂きたい)。もし答を知らない場合は、次の段落を読む前にぜひ1分ほど考えてから読み進めてほしい。

結論を言うと、「Divide-the-Dollar ModelはSpatial Modelの特殊ケース」である。下図のように[0,1]という区間を政策空間として、プレイヤー1はを理想点とする単調増加の効用関数、プレイヤー2は0を理想点とする単調減少の効用関数を持っていると考えれば、Divide-the-Dollar ModelをSpatial Modelに変換する事ができるからである。したがってSpatial Modelで一般的に示された定理はDivide-the-Dollar Modelでも成り立つはずだし、逆にDivide-the-Dollar Modelで示された定理も、上記の条件が揃っていればSpatial Modelでも成り立つはずだと考える事ができる。

コロンブスの卵とはこの事かと思うが、私自身もこの事には今日まで気づいていなかったし、ロチェスター大学のゲーム理論の授業でこの点を質問した時も、先生から答は返ってこなかった。それくらい、多くの数理政治学者が意識せずにうやむやにしている点なのではないかと思う。ではなぜ私がこの点を理解できたかと言うと、今日指導教官とのミーティングの中でこの点が重要になったので質問してみたところ、あっさり答が返ってきたからである。数理政治学者は必ずしも数理に精通していない人が多い中、指導教官は最も数理に詳しい数理政治学者の一人であるので(その事は経済理論のジャーナルにおびただしい量の業績がある事に表れている)、私の長年の疑問にあっさりと答えたのはさすがと思わざるを得なかった。応用理論家志望としてサブスタンスをしっかり勉強するのは当然として、数理についてもせっかく厳しい環境で勉強できているので深い理解を目指していきたい。