Rochesterで数理政治学を学ぶ

アメリカ政治学博士課程留学サンプル

ミーティング記録⑤ Professor Brandice Canes-Wrone

今期最後のゲストスピーカーBrandice Canes-Wrone教授は主に大統領研究で知られているアメリ政治学者で、最近PrincetonからStanfordに移籍された。最近はもっぱら実証研究をされているが、Stanford GSB出身という事もありかつては理論研究もしていて、その中で有名なPandering(大衆迎合政策)に関する論文は、何を隠そう私の2nd-year paperのテーマである。自分の研究テーマのパイオニアと直接お話できる機会など今後の人生何度得られるか分からない機会なので、迷う事なく朝食・ミーティングセットに申し込んだ。

自分の研究に対する反応は、好感触だったと思う。対面で批判的な事を言うビジターはあまりいないので額面通り受け取るわけにはいかないが、かと言って内心100%批判的にもかかわらずそれを隠し通すというのも逆に難しいと思うので、評価してもらえている確率を50%から60%くらいにはBayesian Updateできたと言えるだろう。

それ以外の話で面白かったのは、経済学では論文の中身と同じくらい著者が誰であるかが論文のパブリッシュに重要であるという噂があり、政治学ではどうなのかと聴いてみたところ、「シニア教授はむしろ差別される傾向にある」という予想と逆の答えが返ってきた。とはいえご自身はキャリアを重ねるにつれR&Rになる確率が上がったという正反対の事も仰っていたのでどちらが正しいのか分からないが、未だにデスクリジェクトされる事もあるそうなので、少なくとも大物だからと言って必ずしも特別扱いしてもらえるわけではなさそうである。ベテランと若手が同じ土俵で論文の質を競えるのだとしたら、嬉しいニュースである。

あとは自分は政治制度の中でも執政制度に特に関心があるので、先生がStanfordで教えられている大統領に特化した授業(学部生向け)についても伺った。その中のトピックである大統領の単独行動に関してはWilliam Howell著のPower without Persuasionがあまりに有名だが、この本は大統領の単独行動の有効性を誇張し過ぎているきらいがあり、近年は単に有権者に対するPosition takingに過ぎないのではないかと主張する研究もあるそうである。いずれにせよ、サブスタンスには「確立した知見」が少ないので、メソッドよりも教えるのが難しい(情報過多で混乱しないよう教科書ベースで学習するのが望ましい学部生相手にはとりわけ)という事を改めて感じた。

今回のミーティングは概ね成功と言ってよいのではないかと思う。ちなみに今までは普段のカジュアルな格好で朝食やミーティングに参加していた(し先輩方もそうだった)が、今回からはビジネスカジュアルな格好で参加する事にした。やはり身なりをきちんとしていた方が相手からも丁寧に扱ってもらえる気がするし、自分自身の身も引き締まるので就活の練習になると思う。学会でのネットワーキングの難しさを思い知った今、ビジターとのネットワーキングがいかにやりやすく貴重な機会であるかも痛感したので、今後も積極的に活用したい。