Rochesterで数理政治学を学ぶ

アメリカ政治学博士課程留学サンプル

初MPSA

今回は初めてMPSAに参加した感想を書きたいと思う。MPSA中の時間の過ごし方は大きく3つ(数理政治学セクションへの参加、ネットワーキング、シカゴ観光)である。

数理政治学セクション

開催地であるPalmer House a Holton Hotelの第一印象は、「スクリーンが小さい…」である。ホテル開催の学会は学会割で安くホテルに泊まれたり空き時間に部屋に戻って休憩できたりとメリットも多いのだが、大学の教室にあるような大きなスクリーンがないので、オーディエンスはこじんまりしたスクリーンを凝視する事を求められる。

そういうわけで聴き手としては中々に骨が折れたが、その結果としてプレゼンの巧拙がより浮き彫りとなる環境だったと思う。「プレゼンのスライドは文字を少なめに」というのは常套句だが、スクリーンが小さい今回の場合、文字をビッシリ詰めるタイプのスライドはプレゼンター本人のカンペ以上の何物でもなく、聴き手の理解の促進という役割は放棄していた。またスライドの中で今どこを話しているかを示さずに喋り続けいつの間にかスライドも進むという、いわば「プレゼンとスライドが平行線を辿っている」プレゼンが散見され、この事も聴き手の苦労を増していた。

見やすいスライドを作るのは大前提としてクリアしていたつもりだが、上記の聴き手としての経験からプレゼンとスライドがinteractiveである事が良いプレゼンの条件だという事を実感したので、自分のプレゼンではスライドのどこを話しているか手なりポインターなりでいつも以上に指し示し、聴き手を置いてけぼりにしない事を心掛けた。その甲斐あってかは分からないが、私が参加したセッションの中では最多の3つの質問が寄せられた。質問が湧くくらいには内容が伝わったという事なので、この点は一つ良いシグナルだと思う。

自分がプレゼンした部屋

反省点としては、スライドを見がちになってしまった事である。事前に先生から「暗記するくらい練習しろ」と釘をさされており、実際覚えるほど練習はしていたのだが、やはり多くの人を目の前にすると、不安からついスライドを見てしまう回数が増えた。これは回数をこなして慣れていくしかないだろう。

今「多くの人を目の前に」と言ったが、恐らく20~30人はいたように思う。というのも、一つ前のセッションのプレゼンターとDiscussantを有名な研究者が占めており(有名な研究者のプレゼンには有名なDiscussantを用意できるように、有名な研究者は特定のセッションに固められている傾向がある)、その流れでそれなりに人が残ったのだと考えられる。普通学生が発表しているような若手中心のセッションでそのような数の人は集まらないはずなので、幸運な枠を割り当ててもらえたと思う。

ちなみにこれは2日目に気が付いたのだが、MPSAはオンライン参加を可能にするために全セッションがZoom配信されている。したがって、PCでZoomにアクセスすれば手許でスライドを見る事ができるのだ。これは周りで誰一人やっていなかったので気が付くのが少々遅れてしまったが、この裏技(?)に気が付いて以降一気にストレスが激減した。今後MPSAに参加する方の参考になれば幸いである。

もう一つ気が付いた事として、本当はあまり良くないと思うがProposalを出した論文と報告する論文が違う人も意外と多くいた。研究当初と論文完成時で中身がそれなりに変わるのは珍しくないため、どこからが新しい研究かを厳密に定義するのは難しい。またProposalを審査する人と論文を読んでくれるDiscussantは違う人なので、論文が変わっても誰も気にしない。したがって報告するセクションのテーマと大きく乖離しない限りは論文の変更も許容されるという事なのだろう。

今回対面で参加してみた感想としては、結局Zoomでスライドを見るのでは、プレゼンを見る側の観点からすると現地で参加する意義は薄いが、オンラインでのプレゼンはあまりengagingではないので就活に向けたアピールとしては弱く、プレゼンをする側という観点からはやはり対面の方が良いと感じた。

ネットワーキング

学会の主目的は就活を見据えたネットワーキングであり、それはプレゼンで顔を売る事と、ミーティングで知り合いを増やす事の2要素から成る。前者の目的は果たせたが、今回はまだ誰にも自分に興味を持ってもらえる自信がなかったので、ミーティングを通じて本格的にネットワーキングに繰り出す事はしなかった。代わりに、そのような学生のためにMPSA主催者がメンターと数人の大学院生をマッチングしてくれるイベントに申し込んだ。

メンターはDavid Fosterさんという、Berkeley PhDで現在はLSEポスドク、今年の秋からFlorida State UniversityでAssistant Professorになられる数理政治学者&アメリ政治学者である。主に数理政治学の就活事情やパブリケーション事情について伺ったが、やはり数理政治学のジョブマーケットは厳しく、Fosterさんは結局数理政治学での就活を諦め実証研究をJob Market Paperとしてアメリ政治学で就活する事を選ばれたそうである。FosterさんはJOPに単著が1本、若手同士の共著でもう1本(いずれも理論研究)というトップスクールに就職してもおかしくない業績を持っておられるが、それだけ数理政治学のジョブマーケットは他分野と比べて厳しいという事だろう。ロチェスターの先輩でFosterさん以上の業績を持つにもかかわらずアカデミア就職が叶わなかった人がいるので予想はしていたが、実際の経験者から話を聴く事で過酷な現実をより実感する事ができた。

あとは数理政治学のジャーナルの序列について、自分の認識では他の分野と同様APSR、AJPS、JOPが続いた後に、QJPS、PSRMがサブフィールドトップ的な位置づけで、最後にJournal of Theoretical PoliticsやJournal of Political Institutions and Political Economyが来るという認識だったのだが、Fosterさんも同じ認識である事を確認できた。

Fosterさんはとても気さくな方で、素晴らしいメンターと引き合わせてくれたMPSAに感謝である。実は自分の報告後に日本人の先生(明治大学の加藤言人先生)が話しかけてくださり、アメリカにいながら日本にも少しだけネットワークを広げる事ができた。NYUの学生さん(Joohyun Sonさん)にもプレゼンを褒めて頂き、別の会場で会った時もまた話しかけてもらえたので、顔を覚えてもらえたようである。

またこれはネットワーキングというよりNetwork Preservingと言うべきだが、先月ロチェスターに帰還訪問していたロチェスターの先輩(ブログにミーティング記録を書き忘れてしまったのでここに簡潔に書くと、Zuheir DesaiさんというOhio State UniversityのAssistant Professorで、近年最も成功している卒業生の一人である。物腰は柔らかいが意見は鋭く、ドラフトも丁寧に読んでコメントを下さり、憧れの先輩の一人になった。)に挨拶して存在を覚えてもらえている事を確認できた。ところで自分はシカゴ大学修士課程卒なのだが、当時はパンデミック中だったために全課程をオンラインで終えた。修士課程時代の指導教官であるKonstantin Sonin先生や少しだけ仲良くなったTAのKisoo Kimさんにようやく対面で挨拶する事ができ、自分の存在を覚えていてもらえたのも嬉しかった。

今回は本格的にネットワーキングに繰り出す事はしなかったが、次回は覚悟を決めてネットワーキングにも取り組みたい。1つ上の先輩は、昨年卒業した先輩が紹介してくれたお陰でトップスクールで活躍するさらに上の先輩達と繋がる事ができたらしく、先生や先輩に紹介してもらうというのも有効な手段だろう。

シカゴ観光

観光と言っても自分が行きたい所と言えば、厳密に言うと母校であるシカゴ大学くらいである。所属していたのはわずか一年なので母校という感覚はないが、仮にも自分が卒業した大学に行ったことがないというのも滑稽な話なので、今回キャンパスに行ってみた。ちょうどその日が日食のタイミングと重なったので、若干辺りが薄暗くなるという感動の瞬間をシカゴ大学の皆さんと共有した。

日食を見上げる皆さんの図

シカゴ大学の近くにはオバマ元大統領の行きつけだった老舗の定食屋さんがあり、シカゴ飯のラストはそこで締め括った。

この大統領席に座ると観光客であるのがバレバレ

また私は野球の事は全く分からないのだが、元野球少女の妻に連れられて大谷翔平の試合も見に行った。大谷翔平率いるドジャースシカゴ・カブスに惨敗してしまったが、大谷選手はヒットを連発していたので妻は満足げだった。

2ベースヒットを打つ直前の大谷選手

こうして見ると、意外とシカゴもエンジョイできたのではないかと思う。

 

今回は日米通じて初めての学会報告であり、悪くない学会デビューになったと思う。初回なので試しに全日程参加してみたが、自分がプレゼンをする日だけ現地にいれば十分であり、学会割があるとはいえホテル代も安くはないので(またシカゴでやりたい事・食べたい物は網羅してしまった感もあるので)、今後は自分がプレゼンする日だけ参加しネットワーキングもその日に詰め込むというのでもいいかもしれない。

人生初学会報告を記念して