Rochesterで数理政治学を学ぶ

アメリカ政治学博士課程留学サンプル

アメリカ・イギリス政治学修士課程受験ガイド

どのような修士課程に行くべきか

博士課程についての総論で述べたように、博士課程を見据えて修士課程に行く場合は計量・数理の手法を中心に学習する事がお勧めである。博士課程で計量政治学を専攻したい場合、政治学修士よりも計量社会科学修士(例:Chicago、Columbia)や統計学修士で計量のバックグラウンドを強化した方が、博士課程受験における競争力は高まる。

博士課程で数理政治学を専攻したい場合も、経済学修士を取る事は有益である。というより、ほとんどの出願者が経済学バックグラウンドだと言っても過言ではない。経済学の方が数学的レベルが高く、同じ大学出身でも経済学部卒の方が数理のバックグラウンドが強いとみなされる(し大抵の場合実際そうである)ためである。しかし政治学博士課程に進みたい人にとって興味のある講義が多いのは当然政治学部であり、経済学修士が良い選択肢であるかは難しい問題である。もしComparative/International Political Economyを専攻していてマクロ経済学にも興味があるのであれば、経済学修士は恐らくベストな選択肢になるだろう。そうでない場合は、政治学部に進学しつつ経済学部でミクロ経済学や経済数学を履修する手段を探る方が望ましいかもしれない。

ただいずれの場合でも、数理政治学に興味があるなら博士課程に入る前に一度数理政治学を本格的に勉強する事を勧めたい。というのも、数理政治学は純粋な手法というよりも手法と実体が組み合わさったものなので、どれだけ数理に関心を持っていても、数理政治学自体を学んでみなければそれが本当に博士課程でやりたい事なのか見極められないからである。私の場合も、ミクロ経済学を勉強しただけではそれをどのように政治学に応用するのかイメージが湧かなかったが、修士課程で数理政治学を履修した事で興味を確信する事ができた。したがって経済学修士は良い選択肢であるが、その場合でも数理政治学を勉強できる大学に行く事をお勧めする。具体的なプログラムはこの投稿で紹介している。

統計学修士であれ経済学修士であれ、学部で政治学を専攻し計量・数理のバックグラウンドが弱い場合、そもそも良い修士課程に入る事自体大変なのは事実である。しかしTop10の博士課程に行きたい場合、まずはこの壁を乗り越える事が必要条件に近いと考えられる*1。私のように政治学修士を取得して多少数理のバックグラウンドを補った程度では、Top20は合格できてもTop10には届かないのが現実なので、もしTop10の博士課程にこだわるのであれば、まずは修士課程受験に向けて計量・数理のバックグラウンドを補強した上で、統計学・経済学修士課程でそれをさらに強化するという戦略を強く勧めたい*2

一方博士課程に進学する予定がなく修士号のみを取得したい場合は、政治学に関心があるならストレートに政治学修士課程に進学すれば良いと思う。したがって以下の私のケースは、どちらかといえばこちら側の人達により参考になると思われる。

 

私のケース

私はChicago (MAPSS)、Columbia、DukeLSE (Political Science and Political Economy)、Oxford (MSc in Politics Research)という5校の政治学修士を受験し、LSE以外からは合格を頂いた。ちなみに修士課程受験時にもダメ元でアメリカTop10の博士課程を併願したが、奇跡的にMichiganがウェイトリストになったものの結局全て不合格だった。

博士課程とは異なり修士課程の倍率は低いし*3、求められている能力水準も比較的低い。具体的には、私がこれだけ合格できた事からして計量・数理のバックグラウンドは弱くても良いようだし*4、SOPやWriting Sampleも修士課程を経てから書いたものに比べて当然ながらレベルが低かった。

推薦状については、①京大の指導教官(比較政治学者)、②交換留学先であるジョージワシントン大学の先生(中東政治学者)、③交換留学中のインターン先の上司(日本政治学者)、④Stanford Japan Centerという所で授業を受けたStanfordの先生(社会学者)に依頼した。全員それぞれの分野では一流の先生達であり先生方の推薦状のお陰で合格できたと思うが、自分と同じサブフィールドの先生は一人もいないし、1人に至ってはフィールドすら違う。したがって、推薦状を依頼する先生の条件は博士課程ほど厳しくないと考えてよいだろう。

スコア系については、GREは博士課程受験で出したものと同じである。TOEFLは108 (R30 L28 S 23 R27)とIELTS 7.5 (R9.0 L7.5 S7.0 W7.0)で、Chicago, Oxfordは足切りの関係でIELTSを提出し、他はTOEFLを提出した。

以上を踏まえると、計量・数理のバックグラウンド、推薦状、SOP、Writing Sampleといった博士課程受験で重要になる要素は恐らくそこまで厳しく見られておらず、スコア系が高ければ受かる可能性は高いと考えられる。実際シカゴ大学の同期で計量・数理の強いバックグラウンドを持っている人は一人もいなかったし、アメリカ国外の大学出身者(主に中国)が中心で、推薦状の点でもアメリカ博士課程に直接行く事は叶わなかったと考えられる人達が多かった。アメリカ・イギリス修士課程は、博士課程受験ガイドの総論で述べたような日本人学生が抱えるのと同じハンデを持っている人達が、そのハンデを取り返すための場所であると言える。

このように修士課程の合格自体はそこまで難しくないが、その分博士課程と違って学費や生活費が支給されないので奨学金にも同時に合格しなければならないというもう一つのハードルがある。シカゴ大学の良い所は修士課程には珍しく学費の減免制度がある所で、人によっては全額免除される人もいる。私の場合は幸い3分の2が免除されたのと、JASSOの奨学金も受給できたお陰で進学が可能になった*5

*1:完全に必要条件とは言えないのは、総論でも述べたように東大で今井先生の講義を受講して推薦状を得た学生は、統計学修士でなくでもTop10に進学している前例があるからである。

*2:とはいえランキングが存在しないため良い大学が識別しづらい(したがって競争倍率も総合ランキングで決まっているように思われる)数理政治学では、総合Top20にも総合Top10に見劣りしない大学が複数あるというのも事実なので、交換留学や政治学修士を通じて総合Top20に進学可能な程度に数理のバックグラウンドを補った上で、後は経済学の人達に負けないよう博士課程で取り返すという選択肢も存在するし、実際私はこのルートを辿っている。

*3:とはいえシカゴ大学の倍率は約7倍だったらしいので誰でも受かるというわけではないが、その倍程度の倍率をくぐり抜けなければならない博士課程受験に比べれば比較的楽である。

*4:ただしLSEについては、計量・数理の必修科目がある関係である程度のバックグラウンドがないと合格できないと予想される。

*5:奨学金については、XPLANEという海外大学院進学を支援する団体のサイトがよくまとまっている。