Rochesterで数理政治学を学ぶ

アメリカ政治学博士課程留学サンプル

数理政治学ランキング/数理政治学を勉強できる大学院

博士課程

分野における大学の強さはPlacementで測られる事が多く、Placementを反映した代理指標として、ランキングが参照される事が多い。だが数理政治学にはランキングが存在しないため、自らPlacementを調べてランキングを作成する事にした。選出基準は「直近10年に、総合Top20の政治学部にテニュアトラック教員を輩出した数」とした*1。エラーによる若干の増減はあると思われるが、数理政治学におけるおおよその強さを測る上では有用だと思うので、大学選びの参考になれば幸いである。

 

数理政治学ランキング2023 Top10

順位 輩出大学 輩出数 名前 現在の所属
1 Rochester 5 Gleason Judd Princeton
      Xiaoyan (Christy) Qiu Washington St. Louis
      Zuheir Desai   Ohio State
      Peter Bils Vanderbilt
      Brenton Kenkel Vanderbilt
         
2 NYU 4 Andrew Little Berkeley
      Zhaotian Luo Chicago
      Scott A. Tyson Rochester
      Martin Castillo Quintana Chicago (Harris)
         
3 Washington St. Louis  2 Ian Turner Yale
      Keith E. Schnakenberg Washington St. Louis
         
  Chicago (Political Economy) 2 Congyi Zhou NYU
      Dan Alexander Rochester
         
  Princeton 2 Peter Buisseret Harvard
      Deborah Beim  Michigan
         
6 Michigan 1 Jessica Sun Emory
         
  Berkeley 1 Jack Paine Emory
         
  Columbia  1 Giovanna Maria Invernizzi  Duke 
         
  LSE 1 Federica Izzo UC San Diego
         
  Stanford (Political Economy) 1 Peter Schram Vanderbilt

この表から、今はランキングには入っていないVanderbiltやEmoryが多く若手を採用しており、数理政治学に力を入れ始めているという事も分かる。これらの大学も合わせて検討すべきだろう。

もう一つ分かるのは、この表に登場するのは全部で20人であり、10年分の記録である事をふまえると、1年あたり平均2人がトップスクールに就職しているという事である。狭き門ではあるが、専攻している学生の数も少ないので、他のサブフィールドと比べて「トップスクールへの」就職が特別難しいかは分からない。ただ数理政治学は他のサブフィールドと違ってトップスクールにポストが集中している点、実証研究者に比べて企業就職という選択肢も限定される事をふまえると、就職全般においてはリスクが高い分野である事は間違いない。計量も合わせて勉強したり、サブスタンスの専門も作ったりする事で、リスクを低減する必要はあると思う*2

ちなみにPolitical Economy 政治経済学には、実体的な意味と方法論的な意味がある。実体的にはInternational Political Economy 国際政治経済学とComparative Political Economy 比較政治経済学を意味しており、方法論的な意味ではFormal (Political) Theory 数理政治学 及びそれに基づいた実証の事を指している。上記の表におけるPolitical Economyプログラムとは後者の意味で用いられている。

 

修士課程

博士課程への進学実績は分からない場合も多いので、修士課程はコースワークが充実している大学に行くのが良いと思う。ここでは基本的に政治学修士課程を紹介するが、同じ大学の経済学修士課程に入り数理政治学の講義は政治学部で履修するという選択肢もありうる。

数理政治学が強いのは圧倒的にアメリカだが、アメリカの修士課程は学費が法外で奨学金を獲得しても払いきれない場合が多い。数理政治学のコースワークの充実に加えて金銭的な現実性も加味すると、LSE(Political Science and Political Economy), Chicago, NYU(Pre-Ph.D. Track)の3校がお勧めである。LSEは学費が比較的安く、奨学金を獲得できれば現実的な水準である。私のいたChicago(MAPSS)は元々の学費は高いが大学からの学費減免が充実していて、人によっては全額免除される人もいる。Chicagoにはもう一つMACRMというプログラムがあって、こちらでは公共政策博士レベルの計量・数理(経済学博士と政治学博士の間くらいのレベル)を1年間勉強する。既に計量・数理のバックグラウンドには自信がありそれをさらに強化したいという人にお勧めのプログラムで、こちらも学費が減免される場合がある。NYUが最近作ったPre-Ph.D. Trackも学費が減額されうるようである。

この中ではChicago(MACRM)のレベルが一番高く、MACRMで好成績を取れる見込みがあるほど強い計量・数理のバックグラウンドがあるなら(例えば日本で既に経済修士のコアを受けているなら)、MACRMがベストだと思う。そこまで強くはないがある程度計量・数理のバックグラウンドがある場合は、LSE(Political Science and Political Economy)とNYU(Pre-Ph.D. Track)がお勧めである。計量・数理のバックグラウンドがなくても合格できるChicago(MAPSS)は、私のように学部生の時に出遅れた人がそれを取り返すにはうってつけのプログラムである。大学院レベルならどの学部の授業をとってもよいという柔軟なプログラムであり、政治学部とPolitical Economyプログラムから取りたい授業をうまく組み合わせる事で充実したカリキュラムを構成する事も可能である。だが1つ難点なのは社会科学の諸アプローチを概観するという必修科目がある事で、これはまだ自分の取りたいアプローチが決まっていない人には良い授業だと思うが、大学院というのは学部生の間に様々なアプローチを検討し自分の方向性を決めた上で来る場所だと思うので、個人的にはあまり有意義な授業ではないと感じた。この必修科目が秋学期にあるためにシークエンスを1つ諦めざるを得ず、自分の場合は数理政治学ミクロ経済学を優先した事で計量経済学を諦めた。この点を考えると、余計な科目を取らずに済むLSEやNYUの方がカリキュラム面では良いかもしれない。ただコースワークの充実というのはその年の開講科目に依存するので、入学前に各大学の履修計画を行い比較検討した上で、ベストな進学先を選んでいただきたい。

せっかく苦労して修士課程留学をするなら数理政治学に強い大学に行くのをお勧めするが、コスパの良い交換留学も有力な選択肢だと思う。上記の大学でなくともアメリカの総合Top20であれば基本的に数理政治学の授業が開講されているので、自分の大学の交換留学先にそのような大学があるなら積極的に活用したい。交換留学は学部生しか受け入れていない大学が多いため、留年して学部生として交換留学するという選択肢も検討に値する。

留学と合わせて検討すべきなのは、方法論のカリキュラムが充実している早稲田である。早稲田からは、交換留学や修士課程留学を経ずに直接アメリカの総合Top20に博士課程留学をする事が可能になりつつある。また、早稲田で修士のコアコースを受講してから交換留学・修士課程留学をしてよりレベルの高いコースワークをこなす事で(例えばMACRM)、総合Top10も狙えるかもしれない。

*1:数理政治学者の定義として、実証研究も合わせてやっている場合にどうするべきかという問題があり、理想的には「理論研究をメインでやっている人」をカウントしたいが、これは恣意的にならざるを得ないため、「2本以上フォーマルモデルを使っていない研究を見つけた場合対象から外す」という基準を取った。これにより「入れるべきでない人を入れてしまう」というエラーは減らす事ができたと思うが、全ての研究に目を通したわけではないため完全に無くせたとも言えない。また、全ての政治学部のホームページがサブフィールドごとに教員一覧を表示できるわけではないので、見落としによって「入れるべき人が入っていない」という逆のエラーもあると思われる。

*2:とはいえ既存のサブフィールド区分を前提にサブスタンスの専門を作るというのは、IRが専門の人にとっては何の問題もないし、権威主義が専門の人もComparative Politicsを選びやすいが、民主主義が専門の人がAmericanかComparativeかを選ぶというのは、以前の投稿でも述べたように酷な選択だと思う。自分の研究関心が比較的どちらにフィットしやすいか、どちらの分野の方がティーチングにあたって満遍なく関心を持てそうか、といった点をふまえ決める他ないだろう。