今年もその季節がやってきた。2度目のWallis Conferenceである。(スケジュールや報告内容にご関心がある方はこちらをご覧いただきたい。)今年は課題で立て込んでいる事もあって部分参加する事にしたのだが、これはたとえ忙しくないとしても一般に良い戦略なのではないかと思うに至った。というのも、昨年のWallis Conferenceと春のComparative Politics and Formal Theory Conferenceに全会参加してみた感想として、「あまり興味のないプレゼンはどうしても集中できず有意義な時間を過ごせないし、にもかかわらず集中力を一定程度消費してしまうという二石零鳥」に気が付いたからである。特にFormal Theoryは少しでも集中力を切らすと話についていけなくなるため極度の集中力を要するので、そもそも一日に何本も聴いていられる性質のものでもない(一日中数学の授業を受ける事を想像していただきたい)。したがって興味のあるプレゼンに貴重な集中力を集中させるというのは合理的な戦略だと思う。私は、興味の強さに応じてプレゼンを3段階に分ける事にした。
①強い興味が湧くため、論文を通読して参加するプレゼン
②少し興味が湧くため、論文をスキミングして参加するプレゼン
③興味が湧かないため、参加しないプレゼン
これならたとえ忙しくても、参加しないプレゼンの時間を使って参加するプレゼンの論文を読む事もできるので、効率的に学会を楽しむ事ができる。今回のWallis Conferenceは2日で計7本のプレゼンがあったが、①が1本、②が1本、③が5本という内訳になった。何となく全体に参加していたこれまでの学会に比べると、密度の濃い時間を過ごす事が出来たように思う。ちなみに前回の学会で積極的に質問する事を志したのだが、今回は残念ながら一度も質問できなかった。言い訳としては、①に該当した論文については質問を用意していったのだが、自分が提案しようとしていた内容(具体的には効用関数の仮定について)がプレゼンでは既に反映されていたため、質問する内容がなくなってしまったのである。著者が自力で辿り着く程度の質問なら大した内容でもないので、質問してもしなくても変わらなかったのかもしれないが、Discussantも同じ点を指摘しようとして未遂に終わっていたため、重要な指摘ではあったのかもしれない。これからは参加するプレゼンを絞る分、参加するプレゼンについてはなるべく良い質問ができるよう努めたいと思う。
せっかくなので、理論研究だけでなく実証研究も含めて論文やプレゼンとこれからどう接していくかまとめておきたい。
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論文 |
プレゼン |
関心のある理論研究 |
通読 or スキミング |
通読 or スキミング→参加 |
関心のある実証研究 |
参加しない |
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関心のない理論研究 |
読まない |
読まずに参加 or 参加しない |
関心のない実証研究 |
読まない |
参加しない |
関心のある理論研究・関心のない実証研究へのスタンスはシンプルな一方、関心のある実証研究・関心のない理論研究へのスタンスはねじれが発生している。というのも、より興味があるのは関心のある実証研究でありそれは論文へのスタンスに反映されているが、実証研究の場合論文をスキミング(所要時間5-10分)して要点を理解できれば満足してしまうので、細かい話を聴きにプレゼン(所要時間1時間半)に参加する意欲がなくなってしまうからである。他方理論研究のプレゼンは、数理政治学のワークショップは頻度が低く貴重なので(ロチェスターを卒業すれば頻度はさらに下がりうる)なるべく参加しておきたいため、経済理論については、参加する政治学のワークショップが少ないので代わりに毎週の経済理論ワークショップを通じて新しいアイディアに触れたいと思うからである。ただし、学会については上でも述べたように全てに参加していては疲れてしまうので、関心のある研究にのみ参加する事にしたい。
上記は聴き手としての学会へのアプローチだが、学年が上がり学会の話し手に近づいてきている事もあり、話し手としての学会の意義についても考えてみたい。まずこれは、1時間~1時間半の長い持ち時間があるローカルな学会やワークショップと、15~20分程度の短い持ち時間しかない大きな学会とで大きく異なると思う。前者については「実質的なフィードバックを得る場所」である一方、後者は「ネットワーキングの場所」とりわけ就活を控えた大学院生にとっては「全大学に向けた共通一次面接」という性格が強いと思う*1。
学外で前者の長いプレゼンができるのは基本的にプロの研究者だけなので、大学院生の間は学内のワークショップ、及び学外での短いプレゼンが中心になる。ただ両方とも、そこまでフィードバックを期待はできないかもしれない。学外のプレゼンについては上で述べた通りだが、学内についても、関心の近い先生には指導教官としてフィードバックをもらっているはずなので、それ以外の先生からワークショップでそれと同等のフィードバックをもらう事は難しいだろう。したがって大学院生の間は、指導教官が実質的なフィードバックの主な供給源だという事になる(逆に言えば、プロの研究者になると指導教官がいなくなる代わりに、学外での長いプレゼンの機会を得る事でフィードバックを確保するという見方もできる)。
数少ない例外は、学外の報告でDiscussantからのフィードバックがもらえる場合である。これは非常に貴重である一方、それだけのために遠方で開催される学会にはるばる参加する価値があるかというと、難しい所である。聴き手としても参加したいプレゼンは今回のように一部に過ぎないと思われるので、純粋に研究面だけで見た場合学会参加の見返りが十分大きなものであるかは、(仮に渡航資金が全額支給されたとしても)自明とは言えない*2。やはり大きな学会は、就活だったり、共著者になってくれそうな関心の近い研究者と知り合ったりというネットワーキングが主目的の場であって、「もしも良いフィードバックがもらえたらラッキー」というスタンスが良いように思う。そう考えた時、今までのように自分の大学やオンラインで行われる学会・ワークショップには興味に応じて積極的に参加しつつも、そこまで焦って大きな学会に参加を始めずともよいのではないかと思う。それよりも、授業を通じてしっかりと勉強しつつ、指導教官たちから確実にフィードバックを得られるよう関係性を構築していく事の方が、今は大事なのかもしれない。
*1:これはもしかすると、Formal Theoryという短時間のプレゼンでは内容を理解してもらう事が困難な研究分野の性質ゆえかもしれない。実証研究の場合は、短時間のプレゼンでも実質的なフィードバックを得られる可能性はあると思う。
*2:学内のワークショップやオンラインのAPSA Formal Theory Seminarはノーコストで参加できる代わりにDiscussantがいないのでフィードバックを得られない可能性もあるというノーコストローリターンなプレゼン、APSAやMPSAといった大きな学会は参加に時間と体力(場合によってはお金)をかける必要があるが、その分Discussantからのフィードバックは確保されているというハイコストハイリターンなプレゼンであると言える。