Rochesterで数理政治学を学ぶ

アメリカ政治学博士課程留学サンプル

Rochesterの講義群:国内政治の数理

国内政治の数理を学ぶ者にとってScott GehlbachのFormal Models of Domestic Politicsはバイブル的存在だろう。この本は国内政治のモデルをほぼ網羅する内容となっており、第2版では1~7章で民主主義、8章で権威主義、9章で体制転換のモデルを紹介している*1。今回気が付いたのは、ロチェスターではこの本の各章を網羅する講義群が開講されているという事である。(ちなみにロチェスター政治学部の講義一覧はここで見れる。アメリカの大学では珍しいことにシラバスも公開されている!)

まず1・2章の「選挙」については、Voting and Electionsで詳細に勉強する事ができる。3章の「利益団体」は、Interest Groupsで実証研究と共にサーベイされる。4・6章で扱われる「議会」のモデルについては、Models of Democratic Politicsが詳しく扱っている*2。5章の「官僚制」は、Bureaucratic Politicsで実証研究と合わせてサーベイされる。(ちなみInterest Groupsと担当教授は同じで、それぞれ隔年で交互に開講されている。)7章の「Political Agency」は1・2章と同じく選挙のモデルだが、政策決定ではなく政治家のアカウンタビリティに主眼を置いたモデルとなっていて、これはSocial Choice, Bargaining, and Electionsの主要トピックである(教授陣の専門が重なっているため上記の2つの授業と同じく選挙と議会のモデルも扱われるが、アカウンタビリティを扱うのはこの授業だけである)。8・9章で扱われる権威主義および体制転換のモデルについては、Dictatorship and Democracyで実証研究と共にサーベイされる。

まとめると、1,2,4,6,7章のテーマである選挙と議会のモデルは理論の講義で体系的に学習する事ができ、残りの3,5,8,9章のテーマも、サブスタンスの講義で実証研究と合わせてうまくカバーされている。見ての通りロチェスターには選挙と議会のモデルを専門とする教授が多く手薄な分野もあるのだが、そうした分野に関しても、理論研究に対して理解のある実証研究者がバランスよく講義で扱う構成となっているのは、ロチェスターの特色と言えるだろう。もちろんそうした手薄な分野を専門としたい場合は他の大学に行く方が望ましいが*3、もし選挙や議会のモデルに関心があり、かつ国内政治の数理を網羅的に学習したいなら、ロチェスターを超える環境は恐らくないと思う。自分自身はPolitical Agencyのモデルに特に関心があるので、ロチェスターと相性の良い学生の一人だと言える。正直ここまで考えて入学したわけではなかったのだが、カリキュラムが思った以上に緻密に作られていて(もちろんFormal Models of Domestic Politicsを意識して作っているわけではないと思うが)、この大学に来てよかったという確信が強まった。現在履修している科目の概要や感想については、また講義が終わってから投稿したいと思う。

*1:ただし体制転換のうち、民主化の逆である「民主主義の後退」はここ1、2年で多くの研究が登場している最新のテーマであるため、まだ収録には至っていない。第3版に期待である。他に手薄なのは、まだ十分発展しているとは言えない司法や有権者のモデルだろう。

*2:理論的には、4章はSpacial Model、6章は"Divide-the-dollar" Modelという2つの形でいずれも議会におけるBargainingのモデルを扱っており、実体的にもそれぞれ大統領制、議院内閣制を意識したモデルになっているので、これらの章は本来連続した章にした方が分かりやすい構成だと思う。ちなみにもし自分が章の順番を決められるとしたら、まず最初に民主主義の基本である選挙(1, 2章)と議会(4, 6章)を配置し、次に有権者・政治家間のアカウンタビリティを扱った7章、政治家・官僚間のアカウンタビリティを扱った5章を並べた後、内容が経済学的で毛色の違う利益団体(3章)を民主主義の最後に持ってきてから、最後はオリジナル通り権威主義と体制転換の8, 9章で締めくくるだろう。この順番の方が、より国内政治の体系を感じられるのではないだろうか。

*3:例えば官僚制のモデルならColumbiaのMichael TingやEmoryのJohn Patty、BerkeleyのSean Gailmard等がすぐに思いつくし、権威主義のモデルなら、Scott GehlbachやKonstantin SoninがいるChicagoや、Milan SvolikのいるYaleが有力候補になるだろう。司法のモデルには詳しくないが、PrincetonのCharles CameronやDukeのGeorg Vanberg、EmoryのTom Clarkが有名ではないだろうか。利益団体のモデルで有名な政治学者は思いつかないが、どちらかと言うと経済学者が得意な分野だと思う。