Rochesterで数理政治学を学ぶ

アメリカ政治学博士課程留学サンプル

Rochesterで初「散髪」

これまで硬い内容の投稿ばかりが続いたので、今回は初めてロチェスターの生活について書きたいと思う。

新しい国での生活において、散髪をどうするかというのは不安材料ランキングのベスト3には入るだろう。国によってスタイルも違うし、周囲の人達を見ても自分と同じ髪型をしている人など一人もいない。髪型に強いこだわりのない自分でさえ、現地の美容室に行くのはやはりおじけづかずにはいられないのである。そんな中、学部からロチェスター大学に通い現在ロチェスター在住5年目というベテラン日本人の方にお勧めの美容室を教えて頂いたので、今回行ってきた。

その方から「安くて速いのが売り」という前評判を聞いていたのだが、その一言には集約しきれない濃密な体験が、私を待ち受けていた。

まず入り口には「予約無しでお入りください」との貼り紙があったので店に入ろうとすると、営業中にもかかわらず鍵がかかっている。中では店の主人と思われる東南アジア系の中年女性が、外国語で画面の向こう側の友人とおしゃべりをしていて、私に気づくとすぐに中に入れてくれた。恐らく治安が悪い地域なので、おしゃべりに没頭している隙に強盗などに入られぬよう用心して鍵をかけているのかもしれない。なるほどそういう事もあるだろう。

次に、おしゃべりの終わりを待っていざ髪を切ってもらおうと思ったら、短髪のおじさんが入店してきて、「この方のカットは数分で終わるから先に切ってもいいかい」と言われた。私は反射的に承諾してしまったが、その判断を後悔する間もなく、本当に数分でカットが終わった。アメリカでは「ちょっと待って」と言う時に"Give me a second (1秒ください)"などとかなり過小な見積りをするのでその類かと思っていたのだが、文字通り数分で終了して私の番が回ってきたのだ。おじさんは満足げに帰っていった。

そしていよいよカットが始まるとまずはシャンプーをしてもらったのだが、日本のサービスに慣れてしまっている人間にとってはさすがに雑すぎた。店主の長い爪がガリガリと私の頭皮を刺激し意図せぬ頭皮マッサージを受けたかと思えば、洗い上がりには髪がびしょ濡れのまま体を起こされ、まるで忙しいお母さんが急いで子どもの頭を拭くように頭をゴシゴシとされた。店主の名誉のために付け加えておくと、店主は本当にお母さんであり、息子さんがもうすぐアメフトの試合の決勝に出るという事で本当に急いでいたのである。

常連客とのやり取りからこうした事情を察していた私は、大事な試合前なのでいつにも増してスピードに磨きがかかっているのだろうと思いながら、カットの席についた。すると今度は、すきバサミでほとんど引きちぎるように素早く髪を散らしていくではないか。これが本当の意味での散髪かと感心しているうちに、私のカットも10分ほどで終わってしまった。仕上がりはというと、大満足である。元々日本でも格安美容室の顧客であった私からすると、全く何の問題もない出来栄えだった。

だが、急いでいるからなのか普段からそうなのかは分からないが、髪は自分で乾かした。ドライヤーがセルフサービスの美容室というのは聞いたことがないが、まあ乾かすだけなら確かに技術も要らないしこれが安さの秘訣かと思えば、意外と何とも思わなかった。

しかし会計を済ませようとすると、壁の貼り紙にあるメンズヘアカットの15ドルではなく、短髪女性ヘアカットの25ドルを超える26ドルが請求されているではないか。「この人には自分が女性に見えているのか?」と一瞬戸惑いつつ、声も普通に低めだしさすがにそれは考えづらく、恐らく私の髪が少し長めなので短髪女性とカウントするという柔軟な性別判定方式を採用しているのだろうと思い直して、チップも含めキリ良く30ドルを支払った。(チップに馴染みのない人のために説明すると、チップとは商品自体の値段や消費税とは別に、接客してくれた個人に対して支払うサービス料である。)

まあ30ドルならアメリカでは安い方だし、カットの仕上がりも納得のいくものだったので、私もおじさんと同様満足げに店を後にした。サービスは正直素晴らしいとは言い難いが、私が滞在していたわずか20分程度の間にも何組もの常連客が訪れ(そして「もうすぐアメフトの試合に行き店を空けるのでまた午後に来てくれ」と言われ不平そうに帰っていっ)た事を考えると、地元の人達から愛されている店なのだろう。作業はガサツでも不思議と不快にならない店主の明るいキャラクターがそうさせているというのもあるかもしれない。いずれにせよ、恐らく私もまた来店するのだろう。まとめれば、陽気なおばさんが素早く髪を散らす店の話である。

行きに通った何でもない道の美しい紅葉