Rochesterで数理政治学を学ぶ

アメリカ政治学博士課程留学サンプル

Wallis Institute of Political Economy Annual Conference 2022

Wallis Insitute of Political Economyというのはロチェスター大学の政治学部・経済学部が共同で運営する政治経済学(≒数理政治学)の研究機関で、主な仕事の一つとして年に一度Annual Conferenceを開いている。PhDの学生も参加できるという事で何やらよく分からず参加してみたのだが、これが中々良い学会だった。

まず、思った以上に規模が大きく、錚々たる面々が参加していた。招待制なのでロチェスターの卒業生など関係者の比重が大きいものの、数理政治学を勉強している人なら誰もが聞いた事があるであろうAdam MeirowitzやKristopher Ramsayの他、参加者リストにはどこかで見た事のある名前が多く並んでいた。オンラインの学会には参加した事があったが、アメリカで対面の学会に参加するのはこれが初めてだったので、今まで紙面や画面でしか見た事のなかった研究者達が目の前にいるのは何とも不思議な感覚だった。

次に、報告者以外のDiscussantによるプレゼンも含めて1時間15分という長い時間をかけて1本の論文を議論するため、(比較的)充実した議論ができていたと思う。私がこれまで参加していた、APSA(アメリ政治学会)のFormal Theory sectionが主催する毎週のオンラインセミナーは、1本あたり30分と時間が短いため大急ぎで全体をカバーしても質疑応答の時間がほとんど残らないのが常で、聞いている側も早すぎて理解が難しいし、話す側も大したフィードバックを得られないため誰得なセミナーになってしまっているのだが、それと比べると今回の学会は、参加者が報告を遮って質問する余裕もあるし、Discussantという第三者の評価も聞けるという贅沢な時間だった。ただ「比較的」充実していたというのは、これは私の勉強不足によるのも否めないが、理論の論文は何時間もかけてじっくり読んで初めて理解できる性質のものであるため、75分間で内容がよく理解できたとは言い難いからである。それを見越して興味のある論文は予習していったのだが、十分な時間が取れず結局理解半ばで臨んでしまったのが反省点である。参加者の質問内容を聞いていると多くの参加者が予習せず臨んでいる事が窺えたため(研究者は忙しいので仕方のない事だが)、恐らく皆似たような理解度だったのではないだろうか。しかしAPSAのAnnual Meetingも上で触れたオンラインセミナーと同様短時間で多くの論文を捌いていくスタイルらしく、あるロチェスターの先生いわく「論文を売り込む」所である事(つまり実質的なフィードバックを得に行く所ではなく、就活を見据えたネットワーキングの場所として捉えるべきだという事)を考えると、Wallis Conferenceが相対的に見て素晴らしい学会であるのは間違いないだろう。

個人的な収穫としては3つあり、まずは報告者の一人が非常に自分と近い研究関心を持っている事が分かった事である。失礼ながらその人の事は知らなかったのだが、ドイツの博士課程を修了してアメリカの大学に就職するという異色の経歴を持ち、若手にもかかわらず既に経済学のトップジャーナルに多くの業績を持つ超一流の研究者である。今後はその人の研究もフォローしていきたい。

次に、思い切って質問ができた事である。学生とはいえ参加する以上はなるべく質問したいと思い、事前にそれなりに的を射ていると思われる質問を考えていったのだが、無事に質問することができた。報告者の反応は少なくとも「この若者は何おかしなこと言ってるんだ」という感じではなかったし、自分の目の前に座っていた報告者の共著者が自分の質問もメモしてくれていたので、悪くない質問ができたのだと思う。

最後に、自分の兄弟子に当たる人達と話す機会を得られた。一人はPrinceton、もう一人はVanderbiltの助教授で、近年のロチェスターの卒業生としては最も成功している人達である。頂いたアドバイスは当たり障りないものだったが、具体的に誰がDissertation Committeeだったのかという前から聞いてみたかった質問ができたので、ファーストコンタクトとしては悪くなかっただろう。今は何の業績もない学生なのであまり自分に興味を持ってもらえている感じはしなかったが、いずれしっかり業績を作って、対等な研究者として話ができるようになりたいと思う。来年までに業績を挙げる事は難しいのでさすがにこれを来年の目標とはできないが、その代わりこの一年しっかりと理論を勉強して、より良い質問をする事を来年の目標としたいと思う。