Rochesterで数理政治学を学ぶ

アメリカ政治学博士課程留学サンプル

留学お役立ち情報②リーディングの戦略

計量・数理政治学者であれば読む文献は英語が主となるため、効率的に英語を読む戦略を見つける事は重要である。また交換留学や大学院留学においてもリーディングをする時間はかなりのウェイトを占めるから、リーディングにうまく対処する事が留学の充実を決めると言っても過言ではない。研究におけるリーディングであれ、授業におけるリーディングであれ、基本的な戦略は変わらないと思う。

前提として、私は京大での指導教員が執筆した以下の記事から影響を受けており、ここに書かれている事には基本的に賛同している。記事では「何をどの程度読むのか」「どのように読むのか」「1つの文献と他の文献の関係をいかにして読むのか」という3点について書かれているが、英文特有の事情については述べられていない。したがってここでは「どのように英文を読むのか」という点について、私自身の考えを述べてみたい。

http://www.yuhikaku.co.jp/static/shosai_mado/html/1409/07.html

http://www.yuhikaku.co.jp/static/shosai_mado/html/1411/05.html

http://www.yuhikaku.co.jp/static/shosai_mado/html/1501/06.html

 

1.スキミングとは何か

まずはよく耳にする「スキミング」とは何かを考えてみたい。「流し読み」の事では?と思いがちだが、流し読みで英文から要点を得るのは至難の業だと私は感じている。それは1つには私がノンネイティブだからであり、もう1つには英語自体が流し読みに適していない言語だと感じるからである。

日本語は主に表意文字であるのに対し、英語は表音文字である。つまり、漢字を多用する日本語の文章はざっと見ただけで何となく内容が伝わってくるが、英語は一つ一つの文字自体には意味がないためパッと見では何が書いてあるか分からない。したがって、英文の場合は恐らく、読んだ時に無意識に脳内で音声が流れる事でようやく意味が入ってくるのだと推測される。人間の脳は視覚処理より音声処理の方が遅いらしいので、流し読みでは英文の音声処理が追いつかないのかもしれない。

このように英語は元々流し読みに適さない言語であると推測されるが、さらに自分がノンネイティブであるゆえに処理速度が遅いのが重なって、流し読みというのはかなり難しい技だと感じる。したがって、スキミングとは流し読みではなく「飛ばし読み」の事だと捉えるのが妥当、というのが私の考えである。(言語学脳科学の専門的知見に基づくものではなく私の実感に基づく私見なので、間違いがあればぜひ教えて頂きたい。)

 

2.通読一元論から通読・スキミング二元論へ

スキミングとは飛ばし読みであると述べたが、具体的には本の章や論文の「Introductionを読んだ後、間の図表を見つつ、Conclusionに飛ぶ事」と定義する。この3箇所が一番要点のまとまっている箇所であるため、こうすることで通読にかかる時間の5%しか使わず、通読で得られる情報の50%程度を得る事ができる。内容に強い興味が湧かない場合、無理に通読しようとすると漫然と読んでしまうので、要点が頭に残らず「結局何が言いたい文章だったっけ?」となりがちである。したがって、興味の無い文章はスキミングで要点をおさえる事に集中した方が、かえって得られるものは多くなる。

日本人で留学する人は真面目な人が多いので、ついつい何でも通読しようとしてキャパ越えするというのがよくあるパターンである(経験済み)。それは恐らく、「スキミング=サボり」という先入観からくるのではないだろうか。そうではなく、自分にとって重要度の低い文献をスキミングで効率よくさばいて浮いた時間を、重要度の高い文献をじっくり理解するために充てられると考えれば、スキミングは決してサボりではなく、(成績のためにも自分の学びのためにも)効率的戦略であると言える。大事なのは「どれだけ読んだか」ではなく「どれだけの学びを得たか」であり、形だけ多くの文献に目を通しても全く意味はない。(自分がその文献から何を学んだか確かめるためには、その文献をなるべく見返す事無く要約してみるのがいいだろう。)効率よく学ぶためには、限られた時間とエネルギーを興味のある文献に集中させるべきである。

授業におけるリーディングでこの戦略を使う前提として、できるだけ興味を持てる授業を選ぶ事で、通読・スキミング二元論を採用したとしても自然と通読するものが多くなるようにする事は重要である。しかし興味がまだ固まっていない学部生であれば「面白そうだと思って取った授業が思っていたのと違った」というエラーが起きるのはやむを得ないし、自分の興味を自覚していて精度の高い科目選択ができる大学院生であってもリーディングの全てが面白いという事はまずないので、関心の持てないリーディングを上手くさばく事は重要だと思う。研究におけるリーディングなら、何でもかんでも通読していてはキリがないのでなおさらである。

なおトピックセンテンスを「拾い読み」するというのも通読とスキミングの中間として存在するが、経験上「興味があるか無いか」という2択の方が分かりやすく実効的なため、今の所は通読とスキミングの2つに絞っている。 

 

3. ネイティブの文章≠良い文章

通読する文章を選ぶ基準として、上に挙げた「自分の興味とのマッチング」という主観的基準に加えて、良い文章(論理的にクリアでかつ無駄の無い文章)を厳選するという客観的基準も大事だと思う。

日本人でも日本語の良い文章を皆が書ける訳ではないように、英語ネイティブならライティング力があるというのは誤った先入観である。確かにセンテンス内での単語の選択や順番といったミクロなレベルでの文章力ではネイティブには中々敵わないが、どういう順番でどのような文や段落を配置するかといったマクロな文章構成力は日本語でも英語でも全く同じなので、ネイティブもノンネイティブも関係がない。したがって日本語で良い文章を書ける人であれば多くのネイティブより良い英文を書けるポテンシャルを持っているわけだから、ネイティブの文章=良い文章という先入観は捨てて、ネイティブの文章であっても「ここ論理的に曖昧だな」とか「ここ冗長だな」などとツッコミを入れながら批判的に読む姿勢が大事だと思う。

こういう風に考えると、何でも通読しようとして悪い文章に付き合ってしまう事が時間の無駄であるのは明らかである。振り返ってみると、英語を読む際に日本語を読むのに比べて単純なリーディングスピードの差以上に時間がかかる事が多かったのだが、冗長な文章に疲れて集中力が切れがちになっていた事が原因ではないかと思う。そういう場合日本語文献であれば流し読みで柔軟に対処できるが、上で論じたように英語文献の場合はそれが難しいので、思い切って飛ばし読みに変更しない限りダラダラと読んでしまって時間を浪費する傾向がある。逆に、全くストレスなくスラスラと読める良い英文にも私は出会った事がある。そうした文章こそが我々読み手がじっくりと取り組むべき対象であり、書き手としても目指すべき目標だと思う。(この点は日本語の場合でも全く同じである。)

 

4.結論

以上の点を踏まえ、自分の興味のある文献(主観的基準)かつ良い文章(客観的基準)を厳選してそこに時間と労力を集中させ、他はスキミングでさばく事で、効率的で充実したリーディングができるのではないかと思う。具体的には、とりあえず通読するつもりで読み始めるが、Introductionを読んだ後にその文献が主観的基準と客観的基準の両方を満たしているかを検討し、そうでない場合はスキミングで要点だけをおさえる。ここで通読という判断を下した場合でも、読みながら判断が変わればその時点でスキミングに切り替える、という方法である。