Theo SerlinさんはStanford PhD、Princetonポスドクを経て、この秋からKing's College LondonでAssistant Professorになられる方である。ご専門はIPE, CPEで、理論と実証を組み合わせた研究をされている。いつも通りまずは大学院生数人で一緒に朝食をとり、そのまま1対1ミーティングをさせて頂いた。
ちょうど就活を終えた方という事で、朝食パートはもっぱらジョブマーケットの話題だった。アメリカのアカデミアのジョブマーケットへのアドバイスとして多くの人が口を揃えて言うのは、「自分がどのサブフィールドかを明確にしろ」という事である。研究は必ずしもサブフィールドに囚われる必要はないが、ティーチングはサブフィールド単位で行われるし、したがって就活もサブフィールド単位で行われるため、複数のサブフィールドにまたがるような研究テーマだと、どのサブフィールドにおいても専門家とみなされない恐れがあるからである。しかしTheoさんは、あえてこのアドバイスに逆行した就活戦略をとったそうである。結果として、これには良い面と悪い面があったらしい。
まず良い面としては、多くのサブフィールドにアピールしうる研究であるため、トップスクール数校を含む非常に多くの大学からFlyoutに呼ばれたという事である。だが悪い面としては、やはり上述の問題がネックとなり、最終的なオファーは2校だけだったという事である。ただ総合的にどちらの面が上回ったかと言うと、Theoさんのケースでは良い面が上回ったようである。というのも、採用されたKings College Londonのポジションは、Political Behaviorという通常Theoさんの研究が属しているとはみなされないサブフィールドのポジションだからである。したがって、もし複数のサブフィールドにまたがるような研究をしている場合、少しでも可能性があると思えばTheoさんのようになるべく幅広いポジションに応募するという戦略が良さそうである。ただし、Kings College Londonはイギリスの大学であるという点に留意が必要である。アメリカの大学はサブフィールドの縦割り意識がより強いので、Theoさんの戦略はアメリカにおいては成功する見込みが高くないかもしれない。だがアメリカ就職にこだわらないのであれば、無理に特定のサブフィールドに自分を押し込めるのではなく、幅広い国・幅広いポジションに応募するという就活戦略もあるという成功例を教えて頂いた。
ミーティングについては、現在執筆中の3rd-year paperにコメントを頂いた。今回初めての試みとして、スライドを使って20分程度のプレゼンをしながら、プレゼンの途中・後に議論するという形式(つまりセミナー報告の1対1版)をとった。結論から言えばこれは大成功であり、今後もミーティングは全てこの方式でいくつもりである。口頭の説明でも分析結果を直観的に伝える事はできるが、議論の前提として必要な共通理解に辿り着くのが、モデルなしではやはり難しい。また仮に専門分野が全く一緒で共通理解を形成できたとしても、実際にモデルを見て初めて気づける論点もいくらでもある。したがって、フォーマルモデルについて有意義な議論をしたければ、スライドを見せながら行うのがベストだと実感した。その甲斐あってか、ミーティングで頂いたフィードバックは極めて有用なものばかりだった。(もちろんTheoさんの実力も大きい。Theoさんの研究は30%理論、70%実証と仰っていたが、メインは実証研究であるにもかかわらず100%理論家がするような鋭い質問を多く下さったのには感銘を受けた。さすがアメリカ一番のPhDプログラムのトップ卒業生の一人である。)
ビジターが事前に論文に目を通して下さる事は極めて稀であり、自分はそもそもそのように頼む事すらしなくなったが、かといって口頭の説明と議論だけで30分間のミーティング時間を埋めるのは至難の業である。だがスライドを使って説明しながら議論していると、30分はあっという間に過ぎていった。(直後のミーティング枠が空いていたので、15分延長したほどである。)15-20分程度の長さのスライドは、APSAやMPSAの報告で必ず作る事になるので、ここで作ったスライドは必ず後で役に立つ。逆に、それらに向けて作ったスライドを、ミーティングに再利用する事も可能である。少々気が付くのに時間がかかった気がするが、今後もたくさんこなしていく事になる1対1ミーティングの最適なフォーマットに、就活が本格化する前に気が付けたのは、良い事だと思う。
また今日改めて感じたのは、関心の近い人と話すのがいかに楽かという事である。1月にネットワーキングの重要性について投稿したように、今学期はネットワーキングを少しばかり頑張ってみようと思い、関心が少し離れている人(実体的な関心は共有している実証研究者や、実体的関心の異なる理論家)まで含めてなるべく朝食に参加するようにしていた。だが研究関心が離れていると何を話していいか分からず気まずい思いをしたり、逆に無理に浅い質問をして後悔したり、あるいは関心の近い学生と話が盛り上がっているのを横目に悔しい思いをする事もあった。仮に関心が近くなくても、ビジター側は形式上興味を持ってこちらの研究について聴いて下さるが、良いFollow-up questionをするには関心が近くないと難しいので、会話のラリーは1、2往復で終わってしまう事が多い。これが関心の近い人となると、友達と何気なく会話が盛り上がっている時のように、自然と何ラリーも会話が発展していく。別にこれについて話そうと話題を準備していったわけではないのだが、その場で思いついた事を話しているだけで自然と朝食を楽しむ事ができた。
これを「ネットワーキングの成功」と定義するならば、ネットワーキングは関心の近い人に的を絞るべきだろう。そこまで関心が近くない人に対して無理に好印象を与えようとする努力は空しいし、成功確率も低い。逆に関心が近い人に対して好印象を与えるのは努力をそれほど必要としないし、成功確率も高い。確かに就活の練習としては関心が近くない人とうまく話せるようになる事も重要だと思うが、個人的には、関心の近くない人とのネットワーキングでつらい思いを沢山してネットワーキングに対する苦手意識を深めてしまうくらいなら、関心の近い人とのミーティングで成功体験を重ねて自信を深めた方が、総合的に良いと判断した。1年4ヶ月前の投稿でも似たような事を書いていたが、その後ネットワーキングの相手を広げる努力をしてみて、やはりネットワーキングの相手は絞るべきだという判断に戻ってきたわけである。結局、何事も楽しんでいる時のパフォーマンスが一番良く他者からも評価されやすいので、自分が楽しめる形で無理なく頑張っていくのがベストという、自分の生き方全般にあてはまる根本的なポリシーを、ネットワーキングという文脈で再確認した形と言える。